「Hey、店に何か御用でも?お嬢さん?」




無自覚なお嬢さん。




 物騒なものを背負った女性は、後ろで食材が入った紙袋を抱えて佇んでいる人物に向けて、思わず銃口を向けてしまう。

「・・・物騒な事をしないでくれないか?驚かせてしまったのなら、謝ろう」
「あ、ごめん・・・貴方も、この店に用があるの?」
「用も何も・・・ここに居候させてもらっている。店主に用があるなら、起こして来よう。店で待っていてくれるか?」

 階段を上り、ドアを開けて店の中に光を入れる。デスクに紙袋を置く。

「今、起こして来る。ソファーにでも座って寛いでいてくれ」

 そう言うと、奥に引っ込む。

 階段を上る音がして、しばらくしてからドアを勢いよく開け放った音が響く。

「・・・どうなってんのかしら?」

 ガタンッ!ダンッ!

 騒音とともに、この店の店主が何か叫んでいるのが聞こえる。所々聞こえない所はあるものの、居候に向かって文句らしき事を叫んでいるのだろう。

「・・・やれやれ・・・寝起きからへヴィーだぜ・・・よぅ、レディ。元気そうだな」
「まあね。貴方にルームメイトがいるなんて知らなかったわ」
「最近、拾ったんだよ。腕が立つ上に料理もうまい」

 現れたダンテの後ろから、再び小さな影が彼の頭を叩く。

「女性の前だ。上着くらい着ろ」
「・・・人の脳天に鉛玉食らわすような女でも?」
「女性でないと言うのなら納得するが、どう見ても女性だろう。さっさと服を着ろ」

 長い髪を揺らしながら、デスクに置いた荷物をキッチンへ運んで行く。

 その後ろ姿をまじまじと見ながら、向かいのソファーに座ったダンテに問いかける。

「・・・貴方を普通に叩くなんてただ者じゃないわね」
「まぁ・・・ただ者じゃないんだろうな。刀一本で悪魔とやり合ってたから」

 ガシガシと頭をかきながら、椅子の背にかけてあったシャツを羽織る。

「済まない。オーダーを聞かなかったが、コーヒーで良かっただろうか?嫌だったら、紅茶とか日本茶とかあるが・・・」
「あ、コーヒーで大丈夫」
「そうか。ほら、ダンテ。しっかり目ぇ覚ませ。しゃきっとしろよ」

 テーブルにカップを二つ置き、自分の分を持ってダンテの隣に座る。

 ミルクをたっぷりと入れたコーヒーのカップを両手で持ち、猫舌なのか、しきりに息を吹きかけて冷ましている。

「猫舌なの?」
「あぁ。あと、苦いのも苦手なんだ」
「酒も駄目だよな。たった3杯で潰れちまうんだから」

 喉の奥で笑うダンテを睨みつけ、そっぽを向いてボソっと文句らしき台詞を吐き出す。

「・・・浴びる様に飲んでけろっとしてる、どっかの誰かよりマシだ」
「・・・・・・言ってくれるじゃねぇか?」
「誰もあんただとは言ってないだろう?それとも自覚があるのか、ダンテ?」

 隣から鋭い視線で見られてもあっさりとしたもので、逆に睨み返す始末だ。

 普通の女性なら、怖がってしまうだろう。

「・・・ったく、可愛げのねぇ奴だよな。
「あんたに可愛がられる気はまったくないんでね」

 コーヒーミルクを一口飲んで、ほっと息を吐き出す。その仕草は可愛いものなのだが、している本人が無表情に近いため、可愛く見えない。

 本人はまったく気にしていないのだが。

「・・・良く、こいつに睨まれて平気ね。貴方」
「悪魔相手にしていたら、大概の男に睨まれても怖くない」

 レディに答えてから首を傾げ、相手の名前を知らない事に気がつき、テーブルにカップを置いて、居住まいを正してから自己紹介をはじめる。

「自己紹介がおくれたな。私はだ。で構わない」
「ジャパニーズなのね。レディよ。よろしくね」

 薄茶色の長い髪に白い肌。目は琥珀色でその視線は力強さを持っている。だぼだぼのTシャツにジーンズと言う格好ではいるが、雰囲気は清々しい。

「そんでもって、俺の可愛い子猫」
「私が、何時、あんたのものになったんだ?」
「俺が拾ったとき。あーんな頼り無さ気な目でみられちゃぁ、拾わない訳にはいかねぇだろ?」
「・・・・そんなに頼りなかったか?」
「頼りなかった」

 即答され、ぐるぐると考え込んでしまう

 その様子を見て、面白そうなものを見つけたような表情でいるのはレディだ。

「・・・面白いルームメイト拾ったのね・・・私も欲しいわ」
「・・・ぁ〜・・・レディ?私はものではないのだが・・・」
「あら、こいつに見切り付けて、私の所に来ないかと誘っているのよ?」
「ちょっ、おぃ!」

 ニコニコと邪気のない笑顔で言われ、少し困ったような顔をする
 何故か慌てて留まる様に説得しはじめようとしているダンテ。

 ダンテといるよりは安全かもしれないが、拾ってもらったのは事実だし、恩を受けたままと言うのは彼女が納得しない。

「・・・すまないが、これにまだ恩返しをしていないんだ。行きたいが、行けないな」
「残念だわ・・・貴方が一緒なら毎日楽しそうなのに・・・」
「好きなときに遊びに来たら良い。昼間は大体ここで家事をしているから」
「そうね、そうするわ。邪魔も出来るしね」
「・・・おぃ」

 不満そうに眉間に皺を寄せるダンテを一瞥し、無表情に自覚のない口説き文句を吐く。

「イイオトコが台無しだぞ、ダンテ。あんたは笑ってた方が綺麗だ」
「・・・・・ちょっと、この子はいつもこうなワケ?」
「・・・あぁ、大概の口説き文句は自覚のないまま言っている」
「何人落ちてるのかしら・・・・」

 不思議そうに二人を見比べて首を傾げているをみて、ダンテとレディは同時に溜息を吐く。

 ふと、レディの顔を見て、ふわりとした笑顔を浮かべる。

「ん、何?」
「いゃ、綺麗なオッドアイだと思って。ルビーとサファイアだな」
「・・・・」

 絶句して口をぱくぱくさせているレディを一瞥して、ダンテは溜息まじりに呟く。

「こいつの無自覚の口説き文句、誰かどうにかしてくれ・・・・」
「ダンテはブルートパーズだな」
「じゃぁ、お前はアンバーだ」

 結局、彼女は見たままの事実を口にしているだけに過ぎないのだった。


 end



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