
兄妹と神曲
「・・・あぁ、そこの赤いコートの君。ちょっと良いかい?」
「・・・・・・・・俺に何か?」
不審者を見るような目つきで、自分の目線よりも少し下にある目を見やる。
薄い茶色の短い髪にノーフレームの眼鏡。
琥珀に近い色の瞳は柔らかな光をたたえている。
ピラリと見せられた写真を一瞥して、驚きに目を見張る。
「この写真の女性を、見た事はないかな?」
「・・・・・・・・・・?」
がしぃっ!
しっかりと両肩を掴まれ、思いっきり揺さぶられる。
「知ってるのかっ!どこ、どこにいるんですっ!?」
「お、落ち着けって!教えるから、落ち着けよ」
揺さぶられて乱れた髪を掻き上げて、溜息まじりに言う。
これだけ動揺していると言う事は、相棒の親類か何かなのだろう。迎えがあると言う事は、彼の所にいる理由もなくなると言う事で・・・
何となくむっとする。
「・・・あんた、の何だ?」
「僕は、彼女の兄だ」
「ほぅ?まぁ、本人に会わせろってんだろ?着いて来いよ、案内してやる」
男の返事を待たずに歩き出すのだった。
ガチャ・・・
「あれ、ダンテ。お帰り。エンツォの所はどうだった?」
「相変わらずだ。何の収穫もねぇ・・・あぁ、それと、お前に客だ」
「客?私にか・・・って、えぇっ!?」
「っ!会いたかったよっ!!」
がばっと妹に抱きつく男に珍しく慌てているを珍しく思いながらも、その表情は険しいものである。
「・・・のっ!離せ馬鹿兄貴!!」
フッ・・・・ダンっ!!!
抱きついて離れなかった己の兄を思いっきり壁に向かって投げ飛ばす。
ダンテは投げ飛ばされた男を一瞥して、あ〜ぁと言う顔をしている。
「良いのか、。あんな力一杯投げて」
「良いんだ。これくらいじゃな死なない。っていうか、死んでくれるとありがたい」
「・・・どーいう兄妹だよ?」
一応、ツッコミを入れてみるものの、どうも内心穏やかではいられない。
「・・・お前の迎えだろう?迷子の子猫ちゃん?」
「・・・あぁ、そう言えばそうか」
殺したらマズいか・・・
等々、物騒な事を呟きつつ、ダンテの前に立ち抱きつく。
何だかほっとしたような表情のの頭を何となく撫でつつ、どうするべきかと言葉を探す。
「国へ帰るか?」
「・・・帰った方が良いか?」
---私は邪魔か?
そう聞かれているような気がして、首を横に振る。
初めて会った時と同じ様に、頼りない目がダンテを見上げる。いや、あの時よりも不安が大きい光となって瞳に宿っている。
「好きなだけ居ろよ。俺も、その方が楽しい」
「・・・うん」
ダンテの胸に頬を寄せ、ゆっくりと目を閉じる。
微睡んでいる様に見えなくもない。
「嫌なら、そう言えよ。無理矢理帰すなんて事、しねぇし、させねぇから」
「うん・・・まだ、帰りたくない。こっちは面白い」
ヒョイッとを担ぎ上げ、着ていたコートを椅子に放る。
「う、ぁっ?ダンテ・・・?」
「昼寝すっか。あれ、当分起きそうもねーし」
「いゃ、おいっ!どうしてそう言う流れに」
「居るんだろ?」
至近距離で顔を覗き込まれ、言葉に詰まる。
間近での笑顔の破壊力は男女ともに落とせるものを持っている。
「ぁ、う・・・」
「そこんところ、ちゃんと言わなきゃならねぇだろ?何時起きるかわからねーんだし、昼寝しながら待ってようぜ?」
「・・・・分かった」
二階へ続く階段を上りながら、の耳元に少し熱っぽい声で囁く。
「何だったら・・・既成事実作ったって良いぜ?」
「・・・馬鹿っ!」
本当に既成事実を作ったかどうかは、また後日。
end?