彼女がやって来たのは、私達が新しい主の住む家に来てから、少し経ってからの事。

 凄く美味しそうな香りを纏った、薄茶の髪と琥珀色の目の東洋人。

 ・・・一口だけでも、味見をさせてくれないかしら?



グルメな吸血鬼と彼女の血



「ねぇ、。何を作っているの?」
「紅茶のシフォンケーキだよ、ネヴァン。貴方も食べるか?」

 彼女---は私の事をまったくと言っていい程、恐れないで普通に話しかけて来る。

 最初は苛立っていたものの、なれてしまっていると言う彼女の言葉を聞いて納得してしまったわ。
 だって、「美人な吸血鬼だな」なんてあっさりと言うんだもの。イライラしてるのが馬鹿らしく思えたわ。

「ん〜ん、私はいいわ。それよりも、の血の方が・・・・」
「痛いのは嫌だ」
「痛くしないから・・・ね?」
「参ったな・・・私が美人のお願いに弱いのを、本当は知っているんじゃないか?」

 苦笑しながら、ミルクティー色のケーキ生地を型に流し込んで、オーブンをセットする彼女。

 そんな動作さえ、綺麗に見えて。私の食指を刺激してくれる。

 やはり、人間も綺麗で強い力を持ったものの方がいいわね。

 無論、今の主も綺麗で強いけど。

「・・・でも、強い力を持ったものの血と言うのは、異形を支配下に置けるものなのだろう?私の血を飲んで、あなたは平気でいられるのか?」

 心配そうに見上げる瞳は不安に揺れていて。

 心底私を心配している事が、その視線だけで解ってしまう。だから、強く出られない。

 だって、悪魔である私を心配する人間なんて、この子くらいじゃないかしら?

 少なくとも、私は悪魔を心配する人間なんて、くらいしか知らないわ。

「・・・どうかしら?は私より、強そうだから・・・自我を保つのは難しいかもね」
「自我が保てないなら、私の血は諦めてくれ。貴方が貴方でなくなってしまうのは、淋しい」

 長い睫毛に縁取られた目を伏せて視線を外す。

 あぁ、私が男だったら、即押し倒してたんでしょうけど・・・あいにく、私は女で、も女。
 運命って時に残酷よね。

「心配してくれるのは嬉しいわ、・・・でもね?私は吸血鬼で、血を飲まなければ干涸びて死んでしまうわ・・・」
「それは・・・解ってるんだが・・・」

 辛そうに視線を外して、何かと自分の感情と葛藤している彼女を見下ろす。

 うん、もう少しで飲ませてくれそうだわ♪

「お願いよ、・・・一口、ぃえ、一雫でも良いわ。私に血を飲ませて?」
「・・・・・・・・・・一口で、本当に良いなら」

 おもむろにフルーツナイフを取り出して、左手の人差し指を切り裂く。

 白い指先を伝う赤い血が甘美な誘惑となる。

 あぁ・・・本当に、美味しそう・・・・

「・・・やっぱり、ちょっと痛いぞ」
「ナイフなんかで指を切るからよ・・・私なら、痛くしないで飲めたのに・・・」

 細い指先に口を付け、滴り落ちる赤い命の源を舐めとる。

 悪魔に取っては甘く、力の源であるそれは、確かな形を持って私の中に収まる。
 それと同時に、ゆっくりと全身を心地良い波が伝う。

 ゆっくりと舌を指に絡み付け、流れ出る血を舐め上げる。

「・・・んっ・・・っ」

 指に舌が絡む感触に感じてしまったのか、がくぐもった声を漏らす。

 あぁ、もう・・・男だったら本当に放っておかないのに・・・

「・・・・お前等、何やってるんだ?」
「ぁ・・・ダンテ。お帰り」
「お帰りなさい、マスター?」

 よくも邪魔してくれましたわね?

 可愛いを見ていいのは私だけなのにっ!

「ただいま・・・で、何してんだ?」
「あぁ・・・ネヴァンがお腹が空いたと言うから、愛の献血?」
「何で疑問系なんだよ?あ〜ぁ、こんなに深く切りやがって」

 痕でも残ったらどうすんだよ?

 そこはマスターに賛同するわ。私が牙を刺すのなら、傷が残らない様に、私の力で治せる程度の傷しか作らないのに・・・っ!

 まだ血が流れ出ている左手を手に取って、マスター・ダンテは指先に口付ける。
 あぁっ、その流れている分を私にちょうだいっ!とっても美味しいのよっ。

「・・・ちっと甘い。お前、喰ったら美味いかもな」
「喰わないでくれるか・・・シフォンケーキ焼いてるから、出来たらお茶にしよう」
「おぅ。んでも、もうちょっと」

 マスターは椅子を引き寄せて座り、膝の上にを座らせて体の感触を堪能しているらしい。

 あぁっもぅっ!なんて羨ましい事をしているのよ、マスターっ!私もを堪能したいっ!!

「・・・・ネヴァン、私は食べ物でもなければ、抱き枕でもないんだが・・・・」
「あら、顔に出てた?」
「ちょっと・・・ぁん、ダンテ。くすぐったいってば」
「俺は気持ち良い・・・ィテッ、怪我してる手で引っ張るなよ。また血が出るだろうが」
「ネヴァンに治してもらうから、良い。あんたと言う男は・・・あぁもぅ、シャツの中に手を入れるなっ」

 マスターとは本当に仲が良い。こうやって戯れ合うくらいには。

 あぁ、男だったらマスターの位置を確保出来るのに・・・やった事ないけど、私って男になれるのかしら?
 今度試してみましょう。

 男になれたら、と良い事したいわね。無論、ちょっと食事もさせてもらうけど♪


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